2020-2021:卵のように軽やかに



思えば、実家で暮らしていた10代のときはもっと制限された日々だった。
地元は文化が枯渇していた街だったから、インターネットから得られるわずかな情報を頼りに、大好きな音楽や芸術をおぼえた。

限られたお小遣いから頭を捻ってやりくりを考えつつ、母親から支給されたお昼ごはん代をごまかしてお金をためたり、クレジットカードも持っていないから代引きでショップの通販ページから問い合わせて本とレコードを買い集めたり、親に言い訳をしてなんとか夜のライブハウスへ足を運んだり。
おしゃれなカフェも少なくて、インスタグラムで探すなんてこともできなかったから、フリーペーパーを隅々まで読んで手帳にスクラップをしながらお店情報を集めたこともあった。

だからこの1年、ものすごくいろいろなことが制限されていたけれど、なんだか気持ちはとてもプリミティヴだった。

今はあの頃よりもすこしだけ都会の土地で暮らしているし、時代のおかげで地方に住んでいてもある程度のものは手に入ることができるようになった。大人だから、門限に縛られることもない。それこそ東京はもちろん、仕事の都合をつけてえいやっと航空券をとり、欧米に行くことだってできる経済力も身についた(今年に至っては、無力だったけれど)。

選択肢が広まれば広まった分、音楽を聴くことも美術館に行くことも、数をこなして満足するだけになるということを、身を以て体感したはずではないかと自分を叱り、ふりだしに戻った気持ちできちんと選びとり、インプットした音楽や映画は、いつもよりも思い入れが強いものになったと思う。

そんなわたしの1年を、一緒に過ごしてくれたものたち。



Vilhelm Hammershoi

2020年、最初で最後の東京訪問で足を運んだ、「ハマスホイとデンマーク絵画」(東京都美術館)。北欧のフェルメールと呼ばれるヴィルヘルム・ハマスホイの、郷愁を感じさせる近代の都市生活を描いた絵画や、素朴なデンマーク絵画たちが揃った作品展。
“hygge(ヒュッゲ)”という言葉が日本にも広まって久しいけれど、雪に埋もれた街で暖かく暮らすデンマークの人たちの暮らし、暖炉を焚いた部屋で寄り添う姿やクリスマスツリーを囲む様子は、その後始まった自宅待機期間の励みになったように思う。
会場で購入した、デンマークチョコレートケーキの美味しさも記憶に留めておきたい。

PAVAROTTI

今年はよい音楽ドキュメンタリーをたくさん見たけれど、なかでもルチアーノ・パヴァロッティを描いた映画『パヴァロッティ 太陽のテノール』を見た日のことは一生忘れないでしょう。
クラシック音楽業界は呆れるほどに保守的だから、新しいことをしようとするとすぐに横槍が入る。パヴァロッティほどの天才であっても、それは同じだったけれど。
〝本当に素晴らしい音楽で、本当に音楽を愛している人なら、ジャンルが違っても良さを分かり合える〟
わたしはいつだってそう信じていたいし、クラシックもロックもジャズも、すべての音楽に敬意を払いたい。


ON THE ROCKS

ソフィア・コッポラ第2章のはじまり。
今までのソフィア作品の定番でもあった若さゆえの危うさ、そういったロマンティックな描写が全部取り払われ、脱・少女を果たした1作目『オン・ザ・ロック』。
脚本自体はまぁまぁ陳腐だし、警官とのやりとりなど今となっては笑えない場面もいくつかあるけれど、パンデミックで失われてしまったニューヨークの景色もあって、少し儚い気持ちになってしまった。
映画をみたあと、ボーダートップスを買いに走ったのは、きっと私だけじゃないはず。


RECIPE

もともと自炊派ではあるけれど、今年はより一層楽しんだ気がする。
ひとりごとエプロン』のレシピは、全制覇してしまったくらい大好き。
豆乳のお味噌汁は夜食レパートリーに加わり、激務続きの毎日を助けてくれた。
ちょっと奮発して変わった調味料を買い集め、ELLE gourmetNEXTWEEKENDのレシピを試してみる余裕もできた気がする。トリュフオイルは魔法だし、ろく助の塩は奇跡です。
何年か後に、この日々を思い出しながら料理できたら素敵だなぁなんて安易な発想から、レシピノートをきちんとつけるようになった。これからも続けていきたい習慣。


à Paris

待望の日本語訳が発売された、ジャンヌ・ダマス著『パリと生きる女たち』。
パンデミックがなければ今頃は渡仏していたのに…とやきもきしながら手に取った一冊。
パリジェンヌのエスプリ云々の著書は星の数ほどあるし、その姿に憧れて何十という参考図書を読んだけれど、パリジェンヌ になることはトレンチコートを着ることでもバレエシューズを履くことでもLongchampのトートを持つことでもなく、自分の生き方を自分自身が理解することなんだなと、読むたびに思わされる(日本人がふわっと生きすぎているだけなのかも…)。
胸を張って愛せるものだけを日常に置き、自分のスタイルを確立しているから、持ち物もシンプルそのもの。
何度も聞いたことだからわかってはいるけれど、改めて読むたびに背筋が伸びる。
ちなみに私がLongchampを持つのは、パリジェンヌではなく、キャサリン妃へのオマージュです。





…とまぁ、思いつくままいろいろと並べてみた。
上半期の記憶がすっぽり抜けているので、そういえばコートールド美術館展に行ったのも『パラサイト』をみたのも今年のことだった、と日記を読み返しながらびっくりした。

2021年はどうなるか、どこで過ごしているかまだわからないけれど、それなりに楽しく過ごせたらいいな。30代目前になって、はたちの頃に描いていたギラギラとした目標はもうないけれど、でも自分の中で忘れたくない芯のようなものと、なくしたくない大切な人たちと過ごす時間があるので、寄り道をしつつ成長したい。卵のように軽やかに、歌うように生きていたいです。


皆様にとっても、新しい1年が思い出深い日々となりますように。