モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ:『ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2018』

ゴールデンウィークはラ・フォル・ジュルネTOKYO 2018へ。じつは大学卒業以来の参加で3年ぶりとなってしまいましたが、有楽町の賑わいは変わりなく、楽しい時間を過ごすことができました。
今年から丸の内・東京国際フォーラムのほか、池袋・東京芸術劇場でも開催されたラ・フォル・ジュルネ。

今年のテーマは「モンド・ヌーヴォー 新しい世界へ」。

いつの時代も作曲家たちは人生のある時期、母国を離れて外国に移り住みました。主に20世紀には政治的な理由で、多くの作曲家が生まれ故郷や住み慣れた街に別れを告げることを余儀なくされました。かたやバロック時代には、作曲家たちは異国への好奇心に突き動かされ新天地を目指しました。 作曲家たちが自分たちのルーツから遠く離れた場所で書きあげた作品は、どれも意味深く、感動的です。そこにはノスタルジーとともに、「新しい世界」と出会う欲求や希望を感じとることができます。
─ルネ・マルタン


音楽家や芸術家に移民や移住者が多いのは、自分の理想の作品をつくるため、インスピレーションを絶やさないためにより理想の環境を追い求めるからだと思っています。
小澤征爾さんが、「外国の音楽をやるためには、その生まれた土地、そこに住んでいる人間をじかに知りたい」と海を渡った時の記録を思い出しました。

フランスのブザンソン。ぼくがそこへ着いたときには、およそ心細い限りだった。なにしろ日本人は一人もいない町だし、ぼくはどんなことになるか全然予想もつかないでとびこんできたのだから。だがその町を離れるときには、ぼくは「さあ、これでヨーロッパで落ち着いて勉強できるぞ」と大声で叫びたいような、晴ればれした気持ちだった。
─『ボクの音楽武者修行』小澤征爾著(新潮社)


どんな音楽にもそれぞれのランドスケープがあるけれど、それは例えばロシアの哀愁漂う旋律とか、オリエンタルな調性とか、フランスの色彩豊かな音色……などという単純なものだけではなく、作曲家たちの人生をワンシーンごとに切り取り、そこに込められたたくさんの感情や経験をひもときながら、音楽を通してまた私たちも”新しい世界”を垣間見ることができた気がします。

ラ・フォル・ジュルネがほかの音楽イベントと違う特徴のひとつは、「音楽は、社会にどう関わっているのか」ということに正面からきちんと向き合うようメッセージを送っていることだと思います。

芸術は、クラシック音楽は、一部の熱心なファンのためだけのものなのか?
音楽は、単なる”娯楽”なのだろうか?
音楽に、クラシックやジャズ、ロックなどのジャンルがある意味とは?

「音楽を、すべての人と分かち合いたい。たとえばU2のコンサートに3万人が熱狂するのなら、モーツァルトにできないはずがないでしょう?」
そう断言したルネ・マルタンが始めた音楽祭は、ジャズもポップスも民族音楽も全ての音楽が同じフィールドに立っています。
赤ちゃんと一緒に鑑賞できる公演もあるし、国内外・若手ベテラン問わずに最高峰のパフォーマンスをする演奏家が集結して、私たちを隔てる「音楽の壁」というものが、この日だけは少し低くなったような気がしました。

毎年、驚くような仕掛けをプレゼンテーションしてくれるラ・フォル・ジュルネ。次回はどんな世界を見せてくれるのでしょうか。
来年もまた、素敵な音楽に出会えますように。